見てないアナタも大丈夫
ガラスの仮面完結編
1999.10. 3作成
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滝の後ろ側に廻るマヤ。それを亜弓が怪訝そうな顔で伺う。
(何をやる気なの?)
「あぁ☆□△〜〜〜〜。」
滝の後ろで字にならない声を出すマヤ。そして更に、その滝から手をにゅっと出し、滝を突き破って登場する。
「近頃の人間の横暴さは目に余る。かってに川の流れを変え、水をせき止め、川を汚し、我が慈しむ魚たちを殺しおる。もう我慢ならん! 人間どもに思い知らしてくれる!! 我こそは水の神、龍神!」
(龍神?)
(これがマヤの水…)
「行け、水よ! 行って、村々を打ち壊してくるのだ! 行け! 水よ! 岩を砕くがいい、山を崩すがいい。 田も畑も、あらゆるものを渦の底に沈めるのだ。 行け、水よ! 行け!」
圧倒される源造と亜弓。
(マヤさん…)
(こんな…、こんな子がいたなんて)
「行け、水よ! 行け! うぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜☆□△〜〜」
そしてまた、字にならない声を出しながらマヤは滝の後ろ側へ戻っていった。
「それまで!」
月影の声が響く。かたわらで一人、源造が拍手をする。
# なんで、一人だけ? 他の人も拍手ぐらいしろよ!
「マヤ、滝の中から出てこようと思ったのは何故ですか?」
月影が聞いた。
「それはただ、何となくあそこから出てきたらカッコイイだろうなと思って。」
(何となくですって?)
おどろく亜弓。動揺を隠しきれない。
「本能ね…。」
月影が続けた。
「水の神、龍神の登場としては、あの滝はまさに打ってつけです。まず、思いがけなさで見る者の目を引きつけて、そのことで龍神の神秘性を引き立てる。」
「そうかぁ! あそこから出てきて正解だったんだ。くしゅん。」
わざとらしくクシャミをするマヤに対し、いまだに自分の水の演技で使用した衣装を身につけたままの亜弓が心の中で叫ぶ。
(なんて子なの、自分がやっていることに気づきもしないなんて、この子が憎らしい。私にこの子の半分でも才能があったら。)
悔しさで、いてもたってもいられなくなった亜弓はその場を立ち去る。
ANNニュース速報 プロ野球セリーグは中日ドラゴンズが11年ぶりに優勝
「亜弓さん…?」
マヤが後を追う。
(あんな子がいるなんて…。今まで私がやってきたことはなんだったの? あの子の本能の前では、今まで培ってきた技術もなんの役にも立たない。悔しい、憎い。 北島マヤ、あなたが憎い。)
そんな感情を抑えるべく、寺の本堂でダンスの練習に打ち込む亜弓。そこへ、亜弓を追ってきたマヤが顔を出す。
「亜弓さん、どうしたの?」
振り向く亜弓。しかし、とっさに振り向いたせいか、気を取られ足をくじいてしまう。
「亜弓さん!」
驚いて亜弓に駆け寄るマヤ。しかし、亜弓はそれを遮るかのようにマヤをはねつける。
「ほっといて!」
いつもの亜弓とは違う様子に、マヤが驚いてたずねる。
「亜弓さん…、本当にどうしたの?」
心配そうに聞くマヤに対し、亜弓が憎たらしい顔で答える。
「私は、女優として一度もあなたに勝った覚えがないわ。」
思いがけない答えにおどろくマヤ。
「そんな…、何言ってるの? 私、意味が分からない。」
「分からないでしょうね、あなたには。いつだって、自分のこともろくに見えてなんだから。」
「えっ?」
「ずっと、あなたに敗北感を覚えてきた。ダブルキャストでやった『奇跡の人』のヘレン役も、相手役のママはあなたを選んだ。私が苦労して役をつかもうと努力しているのに、あなたはするっとその星をつかんでしまう。あなたを見ていると、どんな努力もむなしく思えてしまう。自分を信じることが出来なくなる。」
「そんな、亜弓さんは天才なのに…。」
「やめて!」
突然、ダミ声で亜弓が叫んだ。
「私は、天才なんかじゃない。本当の天才は、あなたよ…。さっきのあなたの龍神の演技を見たとき、どんな努力をしてもかなわないものがあるんだって知ったわ。ショックだった。初めて、絶望感というものを味わったのよ。」
「亜弓さん…。」
「あなたと出会わなければ、私は私を信じていられたのに。幸せでいられたのに。あなたが憎いわ。」
亜弓の言葉に涙を流すマヤ。
「どうして泣くの?」
「だって、知らなかった。そんな気持ち、亜弓さんはいつだって輝いてた。私の、あこがれだった。」
泣き崩れるマヤ。しかし、その頬を亜弓が平手で激しく打つ。驚いて、亜弓を見つめるマヤ。
「これで分かったでしょ。私は、あなたが憧れるような人間じゃない(ダミ声)! 嫉妬や憎しみ、醜い感情で一杯なの。あなたなんか大っきらい!(ダミ声)」
そう叫び、もう一回ビンタを飛ばす亜弓。
しかし、今度はマヤが亜弓にビンタを飛ばす。
「私だって、今の亜弓さんは大っきらいよ。」
マヤが打ち、亜弓もまた打つ。ビンタの応酬が続く。
「本気でぶったわね。」
「亜弓さんこそ。」
見つめ合うマヤと亜弓。やがて、二人に笑顔が浮かぶ。
「ありがとう。なんだか、胸の支えが取れたみたい、これで紅天女に向けて新しいスタートが切れるわ。」
そういう亜弓に、マヤも笑顔で答える。
「亜弓さん…。」
「覚えていて、あなたはライバル。わたし、きっとあなたに勝ってみせる。」
「私も、絶対負けない。」
堅く誓い合う二人。そこへ、月影がまるで機会を伺っていたかのように入ってきた。
「この里での稽古は終わりです。」
「先生…。」
「あなた方にはもう、紅天女が分かったはずです。」
「えっ?」
おどろくマヤと亜弓。
「自然界を司る精霊の女神、それが紅天女です。」
「自然界を司る…。」
「精霊の女神…。」
「『火』と『水』は、紅天女を演じるための課題です。それを演じたあなた方の中には、もう紅天女がいます。」
「私達の中に…。」
「紅天女が…。」
「明日梅の谷で、本物の紅天女を魅せましょう。」
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