1999.10. 2作成
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舞台はまたまた社長室。
「月影千草が、舞台から姿を消して20年。やっと、ここまで来たか。」
「えぇ、お義父さん。」
「紅天女の上演は長いことわしの夢だった。しかし、月影千草にもしものことがあったら…。真澄! 一刻も早く上演件を手に入れろ!」
「大丈夫です、手は打ってあります。」
例によって、病に苦しむ月影千草。
「源造…! もうすぐ、もうすぐよ。もうすぐ、あのこたちの新しい紅天女が生まれる…。それを見届けるまでは、私は死ねない…。」
社長室に現れるベリーショートの女性。
含み笑いを浮かべる二人。
「不思議な偶然ですね。」
「うん?」
「協会の動きは大都芸能のプランにそっくり。」
「素晴らしい偶然だな。」
「本当に。」
「ボクが紅天女の相手役、一真ですか。」
行きつけの屋台で、桜小路が黒沼の相手をしていた。
「ああ、よろしくたのむよ。」
「ハイ! また、マヤちゃんと共演できるんだ。」
「これからが大変だぞ。オマエも俺も。」
「そしてマヤちゃんもですね。」
火を見つめながら、来るべく火の演技に向けて思案するマヤと亜弓。
「火を演じる…。難しいなぁ。どうやって火を表現すれば良いんだろう。」
「火の動き、火のリズム…。」
「火の演技、火の心…。」
「良くも来れたものですね。アナタが! 一蓮を追いつめ死に至らしめた。紅天女の上演件を得るために。まさかお忘れになったわけじゃ、ないでしょうね。」
「ちぐさ〜」
なさけない声を出す英介。
「お帰りください。二度とお会いすることはないでしょう。源造。」
「お引き取りください!」
「火の心、心の火。私の中に燃えさかる火。あ〜あ、なにかつかめそうなのにな〜。」
たき火を見つめながらつぶやくマヤの元に消沈した英介が現れる。
夜、薪をくべながら火のことを思い浮かべるマヤ。
「八百屋お七…。お七…。吉三さんに会いたい、会いたい、せめてもう一度だけ。火事さえおこれば、もう一度おまえに会える。たとえどんな罪を犯しても、吉三さんに会いたい。会いたい会いたい、おまえに…。」
(BGM・「Calling」)
一方、たき火の前でたたずむ亜弓。
「火の動き。火のリズム。燃え上がる…。」
とつぜん、新体操女に変身する亜弓。
「赤い靴を履いた踊り子のような火。火になりたい…。」
「これは、これはお七の姿。燃えさかるお七の心、お七の心の火…。」
(BGM終了)
「では、火の演技を発表してもらいます。」
火の審査が始まった。亜弓は火のイメージを新体操で演じる。
そういって、部屋を出て準備に取りかかるマヤ。
「スゴイ、亜弓さんの火。見なきゃ良かった。うぅん、アタシにはアタシの火があるわ。アタシの火(目の中に焔)。」
そして、マヤの「火」の演技が始まった。
「火付けは死罪。もし、見つかれば殺される。火にあぶられて殺される。あぁ、江戸の街が燃えている。赤いよ、吉三さん。江戸の空が、赤いよ。」
(これは、八百屋お七!)
月影ではなく、なぜか亜弓が心の中で叫ぶ。
「吉三さん、会いたい。おまえに会いたい…。」
はしごを登るマイムをするマヤ。
(やぐら? やぐらにのぼった)
「この鐘が鳴れば、またおまえの寺へ行ける。火事を逃れて、またおまえの寺へ。あの寺でおまえと過ごせる。吉三さん、おまえと。たとえ、火付けの罪で死罪になろうとも。」
(聞こえる…。鐘の音が聞こえる…。お七の打つ鐘の音が聞こえる。)
「燃えるよ、江戸の街が燃える。もうすぐだよ、吉三さん。もうすぐだよ。おまえと会えるのも、もうすぐだよ。あついよ吉三さん。燃えるよ、何もかも燃えていくよ。オマエとあたしの、何もかも…。」
「それまで!」
月影が叫んだ。
(私が火になろうとしたのに対して、この子がなろうとしたのは心の火。思いつきもしなかったわ。)
まだ、瞑想が頭の中をさまよっている亜弓。
「二つの火、それぞれに個性が出ていて興味深いものでした。亜弓さんの火は、火の精を思わせるほど美しく、マヤの火は心の火が良く出ていました。二人とも合格としましょう。ただし、マヤ。今の八百屋お七、アナタの目には恋の狂気がなかった。」
「恋の狂気?」
「観客が舞台に引きつけられるのは、そこに本物の香りがあるからです。本物の恋をしなさい。」
「本物の恋…。」
そのころ、紅梅村には真澄が訪れていた。
「月影先生とは会ったんですか?」
「あぁ。」
英介と会うためだった。
「よく会っていただけましたね。」
「ところで紫織さんのことだが、紫織さんと結婚しろ。これは命令だ。」
「本物の恋か…。」
なぜか、雨の中を傘も持たずに歩くマヤ。
ふと頭の中に真澄がよぎる。
「あたし、どうして速水さんのこと…。」
そこへ、これまた傘を持たずに濡れたまま歩く真澄登場。
「速水さん…?」
「マヤ…!」
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